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【課題】A Long Day 解説

「なんでもない一日も後から眺めてみれば、悲しみや喜びがある」。ミツメの2年半ぶりとなるフルアルバム『A Long Day』には、なにもない一日こそ愛すべき美しさがあるんだと感じられる、平穏な中にも喜びや悲しみがつまっている。

アートワークを含め、印象的さや掴みやすさはほとんどない。混沌とした所在なげなムードが全体を流れる。しかし、聴き進めるうちに妙に生活の一部に馴染み溶け込んでいく。アルバムという大きな流れの中でストーリーが展開されていき、まるでひとつの映画のような印象だ。疾走感のあるポップなサウンドから、ゆったりとしたファンクを経て徐々にムードに変化が生まれ始める。そしてこのアルバムのハイライトと言えるだろう「船の上」「漂う船」。不安な気持ちになるような、穏やかな気持ちになるようなインストが、アルバム全体に大きな を印象を与えている。とくにギターの音色に中毒性があり、初めてライブで見たときは呆然と眺めることしかできなくなる不思議な感覚があった。このアルバムは言うまでもなく、今作オリジナルのミツメ・サウンドが構築された大作だ。

前作は、録音物でしか表現できない音をテーマに制作された実験作で、サウンドにも厚みがあった。その反動か、その後は”音の少なさ”を突き詰め、4人で演奏するバンド・サウンドを追求している。初期作品から遡ってみても、やはりシンプルに構成されたスカスカな音に平熱なボーカルがのって淡々と流れていくそれこそ、ミツメの音楽の完成系だ。「多重録音で制作した曲をライブで披露するには手が足りない」と彼らが語っていたように、今作はライブでの演奏に乖離をなくした4人の姿がハッキリと見える。リリース直後の完全再現ライブは、何度もライブに足を運んできた私には ”バンド演奏にこだわる”という前提があったからこそ、リリース直後の完全再現ライブは意味があるものだったと思えるし、何度聴いてもあの日の渋谷WWWで見た4人がイヤホンからも聴こえてきて、なんともスリリングなのだ。 

最近では海外でのライブ活動も多く、ミツメの音楽は場所を選ばない。そしてミツメの音楽は”聞きたい気分”も選ばない。悲しかった日も楽しかった日も、どんな気分にも似合う。楽器さえあればどこにいても演奏でき、どんな気分にも似合うのがA Long Dayなのかもしれない。